基本情報
30mの巨体を支える、
海の驚異的なしくみ。
クジラは「魚」ではなく、海で暮らす哺乳類
肺で空気を吸い、体温を保ち、子に乳を与えます。頭の噴気孔は鼻の穴に相当し、水面に上がって呼吸します。陸の哺乳類と同じ体の基本設計を持ちながら、流線形の胴体と水平な尾びれで水中生活に適応しました。 1
数字で知る、クジラ。
グループ全体の数値を一つに平均せず、代表的な種類ごとに確認できる数値を比べています。
(地域・亜種で変動)
- ザトウクジラ ↗成獣約12〜16 m
- マッコウクジラ ↗雌約12 m/雄約16 m
- ホッキョククジラ ↗大型個体で約18〜19 m
- ザトウクジラ ↗成獣およそ25〜30 t(個体差あり)
- マッコウクジラ ↗雌約14 t/雄約41 t(NOAAの代表値)
- ホッキョククジラ ↗最大約90 t(NOAA掲載値)
短時間では32 km/h超
- マッコウクジラ ↗最長約60年(NOAA掲載値)
- ホッキョククジラ ↗200年を超える可能性
数値未確認:ザトウクジラ
(2019年の調査に基づく推計)
— は測定条件が一致する数値・十分な根拠を確認できない項目です。別種の値で補いません。
分布は季節や個体群によって変化します。ここでは確認できる代表的な地域・環境を紹介しています。分布域の境界を示す地図ではありません。
体のしくみ
生きるための、精巧なしくみ。
「なぜその形なのか」を深掘り。写真・観察事実・体のしくみをつなげて解説します。
噴気孔と肺
鼻に相当する噴気孔から吸気・呼気を行います。ヒゲクジラと多くのハクジラでは噴気孔の構造が異なります。 1
人間も肺呼吸です。ただし人は水面に浮上せずに空気を吸えます。
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水中に住んでいても、クジラは魚のようにえらで呼吸することができません。肺で呼吸する哺乳類なので、定期的に水面へ上がり、頭の上の噴気孔から息を吐いて新しい空気を取り込みます。水面で見える「潮」は、呼気に含まれる水蒸気などが冷えて白く見える現象や、噴気孔付近の水滴によるものです。
ヒゲクジラでは噴気孔が2つの開口部に分かれ、多くのハクジラは1つです。潜水中には噴気孔を閉じ、水が気道へ入りにくい構造になっています。つまり「ずっと潜っていられる」のではなく、呼吸する場所とタイミングを自分でコントロールしているのです。
なぜ、水面に戻らないといけない?
体内に酸素を取り込む場所は『肺』だからです。水中の溶存酸素を取り出すえらとは違い、水面に出て空気を吸う必要があります。深く潜る種類では、潜水中の酸素消費を調節し、体内に蓄えた酸素を活用します。魚に似た姿は、海で泳ぎやすい形へ進化した結果で、呼吸器まで魚と同じになったわけではありません。
『潮吹き』を海水の噴水だと考えるのは正確ではありません。勢いよく吐き出された温かい息が冷たい空気中で白く見えたり、噴気孔周辺の水滴が舞ったりしています。観察では、噴気孔の位置や吹き上がる息の形が種類を見分けるヒントにもなります。

ヒゲ板は天然のフィルター
シロナガスクジラの口には「ヒゲ板」が並び、飲み込んだ海水を押し出してオキアミを残します。 1 シロナガスクジラの食事は採餌期に1日数トンになることも。
人間の歯や髪と同様、ヒゲ板の材料にもケラチンが使われます。
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シロナガスクジラが小さなオキアミだけで巨体を養える秘密は、口の大きさと「ヒゲ板」にあります。まず密集したオキアミの群れに向かって口を開き、喉の下側にある多数のひだを広げて海水ごと大量の獲物を取り込みます。口を閉じたあと舌などで水を押し出すと、上あごから垂れ下がるヒゲ板の縁の細い毛状部分がオキアミを捕まえます。
ヒゲ板は人の髪や爪と同じく主にケラチンからなる構造です。歯で一匹ずつ噛むのではなく、巨大な「こし器」を使ってまとめて食べています。食べる量は季節・海域・個体差が大きく、特に採餌期には1日数トンに達する場合があります。大量に食べるという話も、濾過の仕組みと一緒に知ると理解しやすくなります。
なぜ、小さなオキアミで巨体を維持できる?
重要なのは、オキアミ一匹の大きさではなく、海中で密集している大量の個体を効率よく取り込めることです。口を大きく開き、喉のひだを拡張して水と餌をまとめて入れる方法は『ランジフィーディング』と呼ばれます。取り込んだ水を押し出すと、ヒゲ板の毛状の縁が獲物を口内に残します。
ヒゲ板は歯の代用品というより『ふるい』に近い構造です。人がざるで麺と水を分けるように、水だけを外へ出します。ただし実際の流れは複雑で、餌の密度や潜る深さによって一度に集められる量が変わります。シロナガスクジラが数トン食べるという話は、この採餌の効率とセットで理解できます。

尾びれは上下に動く
魚が尾を左右に振るのに対し、クジラは水平な尾びれを上下に打って進みます。 1
多くの魚:尾を左右に動かす / クジラ:尾を上下に動かす
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クジラの尾びれは左右に広がる水平な形です。背骨を含む胴体の後ろ側を上下にしならせ、その力を尾びれに伝えて前へ進みます。多くの魚が尾を左右に振るのとは動きが異なります。
前びれは向きを変えたり、姿勢を保ったりするのに役立ちます。陸上哺乳類の前脚と対応する骨格を内部に持っていますが、見た目は水の抵抗を減らすひれになりました。クジラの「魚のような姿」は、海に適応した結果であり、魚であることを意味しません。
なぜ、魚と尾の振り方が違う?
クジラの祖先は陸上で暮らしていた哺乳類です。長い進化の過程で後ろ脚は小さくなり、水をかき分けやすい流線形の胴体と水平な尾びれが発達しました。泳ぐときは胴体の後部を上下にしならせ、尾びれで水を押して推進力を生みます。
胸びれの中には腕に相当する骨格が残っています。『ひれ』という外見だけでは見えない、哺乳類としての体のつくりです。クジラの胸びれの骨と人間の腕の骨を比べると、同じ構造を違う目的に使っていることが分かります。
驚きの生態
知ったら誰かに話したくなる、5つの不思議。
驚く数字の理由や、どう確かめられたのかまで。開いたまま、その場で読み進められます。

赤ちゃんは、一日に大人ひとり分ほど重くなる?
National Geographic Kids は、シロナガスクジラの子が1日に約91kg増えると紹介しています。生まれた時点でも約1.8tという巨大さ。 3
人の体重を70kgと仮定すると、1日でその約1.3人分に当たる増量です。
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シロナガスクジラの子どもは、生まれた時点で何トンにも達する大きさです。母親の栄養豊富な乳を飲み、短い期間で急激に成長します。National Geographic Kidsでは、1日に約91kg増えることがあると紹介されています。
仮に体重70kgの成人と比べると、子どもが1日で増やす「重さ」だけでその人を上回ります。ただし、体重増加は毎日一定ではなく、授乳期間や子の状態によって変わります。すべてのクジラの赤ちゃんに共通する数字ではありません。
どうして、そんなに急速に育つ?
母乳には成長に必要な栄養やエネルギーが多く含まれ、子は授乳期に集中的に体を大きくします。海は体を水が支えるため、陸上で同じ大きさの体を支える場合とは条件が異なります。大きな体は熱を逃がしにくいという面もあり、冷たい海への適応とも関係します。
『1日に約90kg』は特定の資料で紹介される成長の目安です。成長速度は授乳の段階や個体によって変わり、一定量ずつ毎日増えるという意味ではありません。子どもの成長が親の体の大きさと密接に関係する例として捉えると、数字の驚きが実感できます。

心臓だけで、人間数人分の重さ
実際に回収されたシロナガスクジラの心臓の重量は、約400ポンド(約180kg)と報告されています。 5
70kgの成人を想定すると、心臓1個で約2.6人分の重さです。心臓そのものの写真ではなく、体の大きさを骨格標本で紹介しています。
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シロナガスクジラの心臓は、膨大な血液を大きな体の隅々まで送り出す重要な器官です。実際に回収・調査された心臓で約180kgと報告された例があります。この数字を「すべての個体の心臓が180kg」と受け取るのではなく、実物の測定例として捉えるのが正確です。
仮に70kgの大人と比較すると、心臓ひとつの重さだけで約2.6人分に相当します。なお、クジラも人間と同じ哺乳類で、心臓は基本的に4つの部屋で構成されています。「人が血管を歩ける」という俗説については、確認できた寸法のある資料なしに断定できません。
巨大な心臓でも、仕組みは人と共通する
人間もシロナガスクジラも哺乳類なので、心臓は血液を肺へ送る側と全身へ送る側に分かれた4室構造を持ちます。大型のクジラでは体積に合わせて血液を循環させる必要があり、その結果として心臓も巨大になります。
測定されたひとつの心臓の重量を、すべての個体に当てはめることはできません。しかも『心臓が大きい=血管が人の通れる太さ』ではありません。器官の大きさと、血管の実際の内径は別のデータとして確認する必要があります。

歌が長い。しかも歌い手がいる
繁殖地のザトウクジラの雄は、複雑な歌を約20分続けることがあります。 4
長さ4分の曲を仮定すると、20分の歌は約5曲分。歌うのはザトウクジラの雄です。
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ザトウクジラの雄は、繁殖期に一定のパターンを持つ複雑な歌を発することがあります。歌は短い音の連なりがまとまってできており、まとまった一連の歌を繰り返すこともあります。20分という紹介値はその一例です。
人間の4分ほどの曲に置き換えると約5曲分ですが、クジラの歌を人の音楽と全く同じ意味で理解することはできません。また、歌の機能については配偶行動との関係などが研究されており、すべてが解明されたわけではありません。
歌のパターンは、どう伝わる?
歌は一つの音を出し続けるのではなく、決まった順番に並ぶ複数の音から構成されます。同じ繁殖地域の雄が似た歌を共有し、時間とともにその構成が変化することが研究されています。海の音は空気中と伝わり方が異なり、離れた相手にも届く可能性があります。
歌が求愛や雄同士の競争などにどう関係しているのか、研究は続いています。長い音声だからといって、人間の言葉や音楽と同じ『意味』を持つと決めつけることはできません。

とんでもなく長生きする仲間
北極海に暮らすホッキョククジラは、200年以上生きる個体がいると推定されています。 4
人の人生を80年と仮定すれば、200年は2.5倍。寿命の長い種だけの特徴です。
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ホッキョククジラは北極海の寒い海に暮らすヒゲクジラで、非常に長寿な個体がいると考えられています。年齢推定の研究などから、200年以上生きる可能性が示されています。
80年の人生と単純比較すれば2.5倍以上。ただし、人の平均寿命とクジラの「推定最大寿命」は統計の意味が違います。すべての個体が200歳まで生きるわけでも、クジラ全種が同じ長寿でもありません。
200歳をどうやって調べる?
野生の動物には人間のような戸籍がありません。ホッキョククジラでは体内に残った古い銛の破片や、組織の変化・化学分析などを手がかりに、とても高齢の個体がいると推定されてきました。複数の証拠を組み合わせることが重要です。
『200年以上生きることがある』と『普通に200年生きる』では意味が違います。人間と比べる際は最大寿命・平均寿命・推定年齢を混同しないことが、科学的な驚きを正確に伝えるコツです。

仲間と協力して魚を囲む
ザトウクジラの一部の群れは海中に泡の輪を作り、魚を追い込んで食べる「バブルネット採餌」を行います。 6
私たちが漁網を使うのに対し、一部のザトウクジラは気泡で獲物を集めます。
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一部のザトウクジラは、獲物の魚群の周囲で気泡を出し、魚を狭い範囲に集めて食べる「バブルネット採餌」をします。複数の個体が参加する場面も観察され、海の中で泡が網のような役割を果たします。
人間が道具として漁網を使うのに少し似ていますが、泡を使う行動がどこでも必ず見られるわけではありません。特定の集団や状況で観察される採餌方法であり、クジラ全体に共通する特徴ではない点が重要です。
泡だけで本当に魚が集まるの?
魚群の周りに泡を放出すると、魚が泡の壁を避けて群れの中心へと集まりやすくなる場合があります。そのタイミングを狙って下から口を開いて浮上し、まとめて食べる方法です。複数のクジラが役割分担する行動も報告されています。
これはどの群れでも同じように見られる行動ではありません。環境・学習・個体群の習慣などが関係すると考えられており、『動物が協力して採餌する』ことの面白い事例です。
食べものと食べ方
何を食べる? どんな方法で食べる?
主食だけでなく、食生活の多様さや採食の工夫にも注目します。
ふだんは何を食べる?
食生活の意外な一面
食べ方・食事の間隔
ヒゲで餌をこし取るクジラと、歯で獲物を捕らえるクジラでは食べ方が違います。
野生の暮らし
野生の世界と、つながる。
食物や体の構造だけでは語れない、群れ・生息地・ほかの生きものとの関係をたどります。
写真を読み込めませんでした泳ぐだけで、海の栄養を運んでいる
クジラの移動は、海の中の栄養の循環にもつながっています。
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深いところで餌を食べる種類のクジラは、呼吸のために水面へ戻ります。表層近くで排出する栄養分は、植物プランクトンに利用されることがあります。この上下移動に伴う栄養の移動は「ホエールポンプ」と呼ばれます。
すべてのクジラが同じ深さで採餌するわけではありません。体の大きさ、食べ物、移動する海域によって役割は違います。クジラを単に「魚を食べる大きな動物」と見るだけでは、海の生態系との関わりは見えてきません。
写真を読み込めませんでした死後の体も、深海の生物を育てる
海底に沈んだ大きなクジラの体は、長い期間ほかの生物の資源になります。
背景と仕組みを詳しく読む +
巨大なクジラが死んで海底に沈むと、その死骸を食べる生物や、残された骨の周辺に集まる生物が現れます。深海は表層より栄養が届きにくい場所も多く、大型動物の遺骸は貴重な食物源になり得ます。
この現象は「鯨骨生物群集」などの研究につながっています。ただし、すべての死骸が同じ状態で深海へ沈むわけではなく、形成される生物群集も場所や環境条件によって変わります。
仲間を探す
クジラの種類
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出典・データの読み方
内容は当サイト内で読み切れるようにまとめ、調べ直したい方向けに一次機関・専門機関の原資料を掲載しています。
世界の個体数はシロナガスクジラについてのWWF推定(1万〜2.5万頭)であり、クジラすべての合計ではありません。全長・体重もシロナガスクジラの最大級の値です。
写真は各カードに1回だけ表示し、撮影対象が本文の数値の実測物ではない場合は、写真の説明を優先しています。一部は写真ではなく概念カードにしています。写真の出典とライセンスは各画像の下のリンクで確認できます。
- 01NOAA Fisheries原資料 ↗
Blue Whale — 生態、最大体長・体重、鯨ひげ、寿命
- 02WWF原資料 ↗
Blue Whale — 世界推定個体数
- 03National Geographic Kids原資料 ↗
Blue Whale — 子の成長
- 04NOAA Fisheries原資料 ↗
10 Wonderful Whale Facts — 長寿、歌、種類
- 05National Geographic Education原資料 ↗
How Big is a Blue Whale’s Heart? — 実測心臓
- 06NOAA Fisheries原資料 ↗
Humpback Whale — バブルネット採餌
- 07Smithsonian National Zoo原資料 ↗
Asian elephant — ゾウの体重
- 08NOAA Fisheries原資料 ↗
Marine Mammal Taxonomy — 哺乳類に共通する心臓4室の構造
- 09NOAA Fisheries — Whales and Carbon Sequestration原資料 ↗
04 / LIFE IN THE WILD の説明を確認する専門機関の資料
編集方針:専門機関の公開資料を要約・解説し、対象種と概数の条件を明示します。折りたたみ解説もこのページ内で読めます。出典は研究や資料更新によって変更される場合があります。
02 / 種類の写真とクレジット
出典・撮影者・利用ライセンスを記載しています。写真は表示枠に合わせて画面上でトリミングしており、元画像のファイルは加工していません。公開前にも各画像の利用条件をご確認ください。
- 海面に姿を見せるシロナガスクジラ ↗ — David Stanley / CC BY 2.0
- ザトウクジラの姿 ↗ — NOAA / Public domain
- 息を吐くマッコウクジラ ↗ — Commander John Bortniak / NOAA / Public domain
- 北極圏のホッキョククジラ ↗ — NOAA Photo Library / Public domain









